悲観停止

幾千の星空の下 夜露は無情に光る

D≒SIREの『終末の情景』が如何に90年代V系のアルバムとして「完璧」か

  1. はじめに

     

    ジーザスクライスト...

    ラァブ...

    フォー...

    ユー...

     

    こんにちは。ムラ村隆一です。

     

    みなさんは、「90年代V系のアルバムといえば?」と聞かれた時、何を思い浮かべるでしょうか。

     

    人によって様々な意見があると思いますが、今回は私の一つの意見として、「これが90年代V系だ!」と自信を持って提示できるこちらの作品を紹介させてください。

     

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    D≒SIRE『終末の情景』(1995)

    1. Re:deem

    2. DREAMS BURN DΦWN

    3. SHADES

    4. 存在

    5. 静夢

    6. CALL FOR... YOU

    7. C.U.R.S.E

    8. Vφices...

    9. 絆

    10. JESUS?

    11. KISSxxxx

    12. 追憶

    13. Re:quiem

     

    YUKIYA氏率いるVIJUARU-KEIバンド、D≒SIREの1stフルアルバムです。

     

    D≒SIREはプロモーションをほとんどやらないにも関わらず、当時口コミだけで動員を増やし、アルバムは次々とインディーズチャート1位に輝いた伝説のバンド。

     

    今回はこのアルバムが、「如何に90年代V系のアルバムとして”完璧”か」見て行きたいと思います。

     

  2. VIJUARUから本当に最高

     

    まず、そもそもこのアルバムの見た目から「最高!!!!!」としか言いようがないんですよね。

    早速見てください。

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    これがパッケージの表の面。そもそもこのバンド名がステキ。

    「Desire」というV系センター試験では超頻出とも言える英単語(cf. LUNA SEA「DESIRE」、X「Sadistic Desire」など)を大胆に使用し、「E」を「≒」にする、「バンド名からVIJUARU-SHOKKUを与えてやろう」という90年代V系のバンド名の典型を忠実に守った姿勢は評価に値します。
    そして、LUNA SEAフォントこと「University Roman」(厳密には若干違うのですが)を使った非常にオシャレなバンドロゴが目を引きますね。

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    そして、裏面にはプラスチックケースの中身が棺桶の形に透けて曲目が見えるようになっており、これもまたカッコイイ。棺桶もご存知ROSIERや、マイナーどころで言えばShiverのPsychodissecionなど、頻出のモチーフ。

     

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    中身を外すとメンバーの写真が並んでいます。

    これもあるあるですね。

     

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    そしてケースをめくると、タイトル「終末の情景」のフランス語訳と十字架が。

    かっけえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    厨二病には堪りません。

     

    このように、V系たるもの、CDの作りから世界観を表現すべきだ!」というYUKIYA氏の気概が随所に感じられる最高の作り。これだけ凝った内装にできるのも、CDバブルだった90年代ならではのものと言えるでしょう。

     

  3. 曲が「典型的なV系」のオンパレード

     

    そして、肝心の曲たちですが、これが本当に90年代V系のお手本のようなものばかり。1つずつ見ていきましょう。

     

    Ⅰ. Re:deem

    意味は「贖う」という意味の動詞。早速「なんかカッコイイ意味の英単語」が出てきて最高ですね。

    また、「Re」と「deem」の間にコロン(:)を挟んでいるのもV系あるある。例えばDue'le quartzの「Re:prica」など。

    曲の中身は、「歌詞カードに書かれた詞をYUKIYA氏がボソボソと朗読する」というもので、途中からシンセによるSEが入ってきて朗読はフェードアウト。

    読まれない歌詞があるというのも、「90年代V系のかっこよさげな逆張り」という感じで神。

    そして、歌詞カードの隣のページにはこのような文言が。

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    ハァーーーーーかっけえ。アルバムの世界観への導入としてここまで完璧なものがあるでしょうか。いや、ない。

     

    Ⅱ. DREAMS BURN DΦWN

    実質1曲目のこの曲、本当に素晴らしいです。

    タイトルがSleep My Dearなどにある、Oに一捻り加えたものになっている(実際はギリシャ文字のファイ)のも勿論ですが、イントロの、初代プレステRPGのようなシンセが裏で鳴る中での「昨日見た夢も、思い出せなくて……」という語りが100点。

    そしてLUNA SEAのJESUSに影響を受けた力強いスネアのリズムに合わせて盛り上がりを見せていく展開が超カッコイイ。

    鼻にかかったナルシズム溢れる歌い方も大変よろしい。

    Bメロは個人的に「異窓からの風景」ver.のシンセが入ったほうが好きです。FF7の戦闘曲みたいでかっこいいから。

     

    Ⅲ. SHADES

    初期Dir en greyなどのコテ系に繋がるデカイベースの音にノイジーなギターによるカッティングが最高な曲。

    サビの「違う誰も愛せずに」の部分は後のアクロの丘の語り「今では誰も愛せない……」に影響を与えているのではないかと思います。初期のDirはYUKIYA氏がプロデュースしてましたしね。

    また、サビの歌詞にメロディだけでなく語りのverも被せていくのも後のコテ系に多く見られるもの。

     

    Ⅳ. 存在

    哀声徨輪」って何?って感じですが、I say calling...を漢字に直したもののようです。

    相変わらず意味はよくわかりませんがカッコよければいいんだよ!これは英語を漢字に直す、ヤンキー文化に影響を受けた初期V系を彷彿とさせるもの(死異紋危異など)なのは間違いないでしょう。

    エモいクリーンアルペジオと歪ませたギターのフレーズはまさにLUNA SEA直系の曲。『別離(サヨナラ)』『己存在(このわけ)』『現在(いま)を殺(と)めて』などのムチャクチャな読み仮名もめちゃかっけえ……

     

    Ⅴ. 静夢

    読み方は「しずむ」。シングルバージョンやデモバージョンなどで幾度となく再録されているのも90年代インディーズV系らしいですが、それも納得の名曲。

    この曲の最高なところは、Bメロの「はじめて」「夜が明けぬことを願った」の間に挿入されるシンセサイザーの「デン!!!!!!!」という音。絶対21世紀には使われないだろうと思われるレトロ感に、僕のような愛好家は涙を禁じ得ないこと確実。

    曲自体はミドルテンポの、非常にメロウな叙情に溢れた名曲なので、再録されるたびにクオリティが上がっていくのを切に感じることができます。ぜひ全ての音源を揃えて聴き比べましょう。

     

    Ⅵ. CALL FOR... YOU

    前の曲から打って変わって、LUNA  SEAのインディーズ期のような不穏な雰囲気が漂う感じ。

    Bメロのブレイクを交えた緩急のある展開がカッコいいです。

    サビはGAKUTOがボーカルやってた時のMALICE MIZERっぽいです。わかり手募集中。

     

    Ⅶ. C.U.R.S.E.

    La'Muleの名曲!?

    ではありません。

    ここまで聞けばわかると思いますが、さっきから「誰も愛せない」ってなりすぎです。よっぽど酷い失恋をしたんでしょう。

    AメロとAメロの間に入ってくるギターのフレーズがカッコいいです。

    「狂気」「幻想」「堕ちる」「揺れよう」などがふんだんに使用されており、90年代V系単語帳の例文集に載っていそうな歌詞です。

    「誰かが動けない」の部分のがなりは黒夢の影響でしょうか。

     

    Ⅷ. Vφices...

    前の曲からの繋ぎが神すぎる。イントロが本当にかっこいいです。

    この曲、おそらくレトロなゲーム音楽が好きな方は気にいると思われる展開で進んでいきます。

    急にテンポが早くなるところが最高なんですよね。そこからシンセが入ってきてどんどん盛り上がってきてサビでテンションが最高潮になります。

    そしてこの曲の特徴的なところは一旦曲を締めた後に始まる、

    YUKIYA氏による-散文詩『息が詰まる程 薄汚れた空の下で 僕と貴方を繋ぐ唯一の物とは 一体何だったろう 今となっては 枯れた花水をやるにも等しい毎日を生きても』より抜粋-の朗読。

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    抜粋とあるので元ネタの文学作品があるのかと一瞬思いますが、作詩:幸也とあるのでおそらく自身が作った架空の作品を引用する形なのでしょう。

    この演出はMadeth gray'llの「Evil en Lucifer」で架空の小説家「久原雅樹」の作品を引用したことなどに繋がると思います。

    非常に画期的ですね。

     

    Ⅸ. 絆

    そして颯爽と始まる非常にメロディアスな曲。

    イントロの終わりにベースソロが入っているのがポイント高いですねえ。

    この曲も再録がされているので聴き比べが楽しいですが、私はこのアルバムのバージョンが一番アルペジオが90年代っぽくていいなあと思いますね。

    最後の「浅き夢のように…」はいろは歌からの本歌取りでしょうか。YUKIYA氏の教養の深さがわかります。

     

    X. JESUS?

    ジーザスクライスト...

    ラァブ...

    フォー...

    ユー...

    世紀の大名曲。

    この曲、「90年代VIJUARU-KEIを象徴する」曲として音楽の教科書に載っていてもまったくおかしくありません。

    ・ツタツタという感じで疾走する高速のツービート(この曲はスピードメタルか?ってくらいの爆走を見せるので最高)

    ・X.Y.Z... A'S I Wanna Be Your "Only"というかっこよさげな英文

    ・クリーンギターによるアルペジオとノイジーなギターのチャカチャカとしたカッティング

    ・メタファーを多用した耽美的でデカダンな歌詞

    どれをとっても”完璧”としか言いようがありません。

    最高の一言。

    90年代V系が少しでも好きな方なら、ラストのサビの「ただ、貴方だけに……」の語りでクソ馬鹿デカイ聲(こえ)が出ること間違いないでしょう。

     

    最早涙が止まらない。これが……これこそが90年代VIJUARU-KEIなのだ!

     

    XⅠ. KISSxxxx

    前の曲が神すぎるのであまり日の光が当たらないかもしれないこの曲。いや、90年代V系は日が当たらないものですが。

    しかしながら、この曲も暴れやすい疾走感にフックのあるメロディーラインが耳に残ります。

    そして、「過去(きのう)」「予感」「涙があふれる」などの頻出ワード、そもそもタイトルの「xxxx」はキスを表す文字列だったり、伏字だったりで90年代V系では非常に多用されるもので、それらを踏まえた、これまたわかりやすいV系の曲といった形で、評価に値する物でしょう。

     

    XⅡ. 追憶

    出だしから「これDir en greyの-I'll-じゃん!!!」と叫んでしまうこと確実な曲。

    正確にはこちらが元ネタなのは間違いないでしょう。

    ダークな雰囲気から一転、ポップで聴きやすいメロディアスチューンです。

    爪を立てがちだったり、傷跡が残されがちだったり、D≒SIREの世界観が如実に現れていますね。

    明るい曲調ながら、耽美性やメランコリックな雰囲気が感じられます。

    ギターソロが最高。テクニックよりもメロディを重視したフレーズで泣いてしまう。

    この曲の歌詞カードにはYUKIYA氏のアー写が載っており、またこの曲も何度も再録されているので、特に思い入れの深い曲だとわかりますね。

     

    XⅢ. Re:quiem

    例のごとくコロンで区切ったSEで締め。

    初代プレステのドラクエの音楽のような壮大さのあるシンセをバックに、詩が朗読されるのかと思いきや、やはり読まれません。

    かっけえ。

    書いてあるものをガン無視する姿勢はSound HorizonのChronicle 2ndでちょくちょく入ってるインスト曲を思い出します。

    こちらのほうが先ですが。

    そうやって90年代V系にありがちな曲数稼ぎのSEで締め……

    かと思いきや、長い無音の時間を経て、

    9分目にシークレットトラック「人工楽園」が始まります。

    これはMadeth gray'llなどのコテ系に通じるシークレットトラックの入れ方ですね。

    ライブの音声を挿入しながら始まるこの曲は、非常にハードコア。

    打ち込みでズドドドと疾走する感じが堪りません。

    ボーカルにディストーションをかけているので歌詞はかなり聞き取りにくいですが、ギターもテクニカルで非常に聞き応えのあるかっこいい曲です。サビで一気にメロディアスになるのは90年代だけでなく最近まで受け継がれる普遍的なスタイルです。

    ぜひ最後まで聞いて欲しいですね。

     

  4. おわりに

私が、なぜこのアルバムが「90年代V系のアルバムとして完璧」と評するのか、お分りいただけたでしょうか。

90年代V系を聞いていると、それぞれのバンドで「ここはありがちだけど、ここは個性的だな」という印象を受けると思います。

一方で、「90年代V系の最大公約数」だけで作られたアルバムって以外と多くなかったりします。

『終末の情景』はそれを実現した、まさに「90年代V系の教科書」であると言えます。

90年代初頭から先人が作り上げてきたそれぞれのフォーマットをまとめあげ、一枚のアルバムに構成し、90年代後半のV系バンドの爆発的増加に貢献した。

1995年というちょうど90年代の半ばにこの作品が作られたことも無関係ではないと思います。

ハードコアな曲、メロディアスな曲、退廃的な歌詞、陶酔を覚えるボーカル、クリーンアルペジオディストーションを効かせたギターのカッティング、ツタツタドラム、シンセの音、どこをとっても90年代V系そのもの。

 

だから私は、「90年代V系のアルバムといえば?」と聞かれた時、この作品を提示するのです。

 

90年代V系有識者の方も、90年代V系を象徴する作品として『終末の情景』を挙げる方は割といらっしゃいます。

 

まだ聞いたことのない方は是非買って聴いてみてください。

まさに「これこれ!こういうの!」と膝を打つこと間違いなしです。

 

 おっと失礼しました。ほとんどの家庭には全音源揃っているとのことなので、みなさん聴いてるはずでした。インディーズチャート1位だし。

 

 

長くなりましたが、最後までご覧くださいましてありがとうございました。

 

 

それでは、次の終末の情景でお会いしましょう。

『別離(サヨナラ)』も届かない現実(いま)を殺(と)めて壊れたい……